組み込みシステムに使われるマイコンとは
組み込みシステムを習得するにはそこに使われるマイコンを使いこなす知識・経験を身につけることが大切です。この章ではマイコンの基本構成および用途について解説しています。
マイコンの基本構成
マイコンとは一つのICチップの中に、CPUをはじめ、メモリ、入出力回路および周辺機能が詰め込まれたものでワンチップマイコンとも呼ばれています。
そもそもマイコンなる名称はかつてPCが現代ほど普及していない時代にスーパーコンピュータなど大型コンピュータに対して呼ばれた「マイクロコンピュータ」の略からついたものでこの当時のマイコンは現代普及しているPCの前身のようなものです。これに対して、現在マイコンとよばれるものは電気機器の制御に特化したワンチップICのことで「マイクロコントローラ」と呼ぶのがふさわしいです。
一つのICの中に演算を実行するCPUを中心にプログラムを格納するROMメモリ,演算データを一時保存するRAMメモリ、外部から与えられたパルス信号のカウントや時間を計測するタイマー機能、センサーなどからのアナログ信号を取り込んで処理するADコンバータ、演算したデータをアナログ信号に変換するDAコンバータ、外部機器との通信などの周辺機能がオール・イン・ワンのICです。
これらの機能がマイコンにはたった一つのパッケージ内にすべて内蔵されており、しかも当時とは比べ物にならないくらい演算処理が高速ですべてが高性能です。
マイコンの基本さえ知っていればちょっとしたシステムならば思い立ったらすぐに短期間でしかも安価で構築できてしまいます。
機能の仕様変更があった場合に、電気回路などのハードウェアで構成されている部分はすべて作り直す必要がありますが、ソフトウェアで構成されている部分はプログラムの変更だけですみます。
つまり、製品の中でソフトウェアの占める割合が大きいものほど仕様の変更に柔軟に対応できます。最近のスマートフォンはこの傾向が強く現れています。
ひと昔前の携帯電話も組み込み機器の一種ですが操作はハードウェアで構成されているボタンスイッチから行います。デザインなどのちょっとした仕様変更でもすべて作り直しです。
対してスマートフォンでは操作はタッチパネルですのでボタンスイッチなどのハードウェアは不要です。
タッチパネルというものも組み込み機器の一種でマイコンやメモリを搭載した製品もあります。画面デザインをメモリに格納しておいて、タッチパネルが押された座標を検知してプログラム(ソフトウェア)で構成された手順で画面を入れ替えたり、スイッチとして機能させたりするのです。
タッチパネル一つにデザインをはじめとする機能を盛り込めるのでソフトウェアの書き換えだけで変更は自由自在です。こうしてスマートフォンはスイッチ類がどんどん減ってソフトウェアの占める割合が大きくなっています。
ハードウェアのスイッチが少なくなる利点はコストが大幅にさがるなどどちらかといえば製造者側にあるのですが、使い手側からみるとはたして使い勝手はよくなったのでしょうか。時代の流れだからといえばそれまでですが。
マイコンの用途
生活のなかでマイコンはどのようなところに使われているのでしょう。身の回りの生活家電、炊飯器、エアコン、テレビ、スマートフォン、シーリングライトなど今ではほぼすべてにマイコンは使用されています。
マイコン搭載の炊飯器:
炊飯器とマイコンの関わりをみてみましょう。
炊飯器は研いだお米に水加減を適切に釜にセットしたものを火加減を調整しながらおいしく炊き上げるものです。
- お米を研いて水加減を適切に釜にセットする
- 中火で炊飯を開始する
- 沸騰し、適切なころあいをみて火を止める
- 一定時間蒸らしをする
人の手で炊飯をする場合は火加減と時間をうまく調整することが美味しく炊きあがるコツとなります。
電気炊飯器はタイマーや温度を感知するバイメタルのようなセンサーと加熱をするヒーターの組み合わせで構成されています。
マイコン非搭載の電気炊飯器はタイマーを使って全自動でご飯が炊けるようになったため人の手で炊飯するのに比べ大変便利になったのですが単純な機能のため好みの炊き加減はできません。
これに対して、マイコン搭載の炊飯器は温度を感知するセンサーと加熱用ヒーターとの間にマイコンがあります。マイコン出力で操作したリレーやSSRなどのスイッチング素子でヒーターへの熱量を操作します。
ひとつのシステムとしてみれば温度センサーから得た入力情報をマイコン内のプログラム(ソフトウェア)により最適な火加減になるようにヒーターへの出力を調整するものです。
実際のマイコンを使った炊飯器のシステム構成は入力には温度センサー、スタートスイッチ、出力にはヒーター、炊飯器の運転状況を表示するモニターなどです。
マイコンによるプログラム(ソフトウェア)で機能を多様化し、いろいろな種類の米にも好みの加減で炊くことができるようになりました。
余談ですが本当においしく炊くためには、プログラムによる機能だけでなく、特に出力ヒーターや釜の材質などハードウェアの性能が重要なポイントです。優秀な製品は優れたソフトウェアによる機能だけでなく優れたハードウェアとのバランスよいものです。
マイコン搭載のスイッチ機能:
続いてマイコン搭載の例をスイッチの動作でみてみます。
電気製品のスイッチといえば機械的に接点をつなげたり切り離したりするもので回路の電流を直接導通させたり、絶縁させたりして製品機能のオン・オフを切り替えます。
マイコン搭載の電気製品の場合、マイコンの入力に機械的なスイッチをつなげて、マイコン出力をスイッチとして機能させると単なるオン・オフだけでなく、プログラムにより時間と組み合わせて、長押しなどさまざまな機能をもたすことができます。
こうすると見た目は従来どおりの機械的な単機能のスイッチに見えますが多機能な性質をもつスイッチに化けています。
例えばLEDをスイッチで点灯する回路についてみてみましょう。
アナログLED回路の場合はスイッチをONにしたときに発光、OFFにしたときは消灯の単純な回路(図1)です。これと同様の回路をマイコンで実現すると図2のようになります。
図2のスイッチはマイコンへ入力としてONの状態(1)とOFFの状態(0)のいわゆるデジタル信号を与えるものです。この入力状態をマイコンでチェックしながら何らかの処理をすれば任意の出力つまりLEDに任意の点灯をさせることができるようになるのです。
マイコンを使用した回路ではLEDの点灯のさせかた、スイッチ機能はすべてプログラムでつくられます。スイッチを1秒間長押ししてから10秒間点灯させ、その後自動消灯させるといった動作が簡単に実現できるのがマイコンの便利なところです。