組み込みマイコンの失敗しない電源周辺回路【ARMコアSTM32】
マイコンでアプリケーションを動作させるにあたって、とても大事なものが安定した電源を供給することです。あたりまえのことのようですが、一言で電源といってもまともに勉強すると、この部分だけで終わってしまうほど奥が深いものです。供給電圧が不安定であったり、電源の容量が不足していたり、また、電源を通した外部からのノイズによるトラブルを防ぐためにもしっかり基本を理解することが大切です。
電源はレギュレータと呼ばれるまさにアナログ技術の結集みたいな高度に設計されたデバイスや部品で構成されているものですが、われわれマイコンユーザーは数多くあるいろいろなデバイスや部品を適切に選定して使用するマイコンに適した電源周辺回路を構築するわけです。
今回はSTM32マイコンに限った話ではないのですが、安定した電源電圧を供給するために筆者の経験も踏まえてマイコンに適した電源周辺回路をどのように構成していけばよいのか、周辺で使用する部品も紹介しながら解説していきたいと思います。
目次
マイコン動作に必要な電源構成
マイコンの電源は電池で供給する場合もありますが、ここでは交流電源から電源電圧を供給することについて解説していきます。
標準的なマイコン電源電圧であるDC3.3Vを供給する場合の構成についてみていきます。マイコンのなかにはスマホのようなポータブル機器向けに乾電池一本分のDC1.5V付近で動作するものもあるようです。
日本国内の場合は一般的な電源は交流AC100Vですので、まずAC100Vの電圧を下げて直流に変換する装置(AC-DCコンバータ)が必要です。AC-DC コンバータ はスイッチングレギュレータタイプが主流で、入力電圧を大幅にさげると同時に交流から直流に変換するデバイスです。家電製品に付属のACアダプタもこれにあたります。
マイコンだけを使用する場合にはマイコン電源電圧近くまで直接スイッチングレギュレータで電圧を落とし、例えばDC5Vをつくることもありますが、ここでは 市販のセンサ等用電源のようなマイコン電源電圧よりも高い電圧が必要な場合も考えて、中間のDC12VやDC24Vの電源をつくることにします。
次に中間のDC12VやDC24Vの電源 をマイコン電源近くまで落とすためにDC-DCコンバータという部品を使用します。このDC-DCコンバータも原理はスイッチングレギュレータと同じもので直接マイコン電源のDC3.3をつくってもよさそうなのですが、スイッチング・レギュレータで発生するノイズを考慮して、リニアレギュレータと呼ばれる部品を更に1段追加して使用することにします。
AC-DCコンバータ(パワーサプライ)について
交流の電力源を入力として、ダイオードにより整流してから安定した所定の直流電圧になるようにコントロールされた電源回路をパワーサプライ(安定化電源回路)といい、さまざまな方式のものがあります。最もシンプルな電源回路としては安定化とは呼べないまでもある程度レベルの直流電圧をトランス、整流器および平滑コンデンサ等でつくりだす方式のものです。 安定化電源には半導体素子を利用して出力電圧をコントロールするシリーズレギュレータ(リニアレギュレータ)方式やスイッチングレギュレータ方式があります。
マイコンで使用する電源は主に軽量・小型化であるスイッチングレギュレータ方式のものとなりますが、参考までにリニアレギュレータ方式も紹介しておき、それぞれの長所・短所について述べたいと思います。
非スイッチングレギュレータ方式
ダイオードとの組み合わせによる半波または全波整流回路と平滑コンデンサを組み合わせた方式や負荷に直列にトランジスタなどの素子で負荷電圧をコントロールするシリーズレギュレータ方式があります。 これらは交流入力電源をトランスを介して降圧してからダイオードブリッジによる整流するところまでは共通です。
平滑コンデンサやチョークコイルによる電源
最も簡易的な直流電源です。チョークコイルと平滑コンデンサで出力電圧をならしても多少変動リプル分は残っています。
リニアレギュレータ方式による電源
前述の回路に負荷電圧が常に一定になるようにフィードバック素子を設けてコントロールしています。この方式の直流安定化電源はとても安定しておりノイズが発生しないなどの長所がありますが、トランスを使用していますので電圧の降下分が損失となりサイズがやや大きくなります。
スイッチングレギュレータ方式
俗にスイッチングレギュレータ、スイッチングパワーサプライやACアダプタとよばれるもので今や家庭でも目につかないことがないほどありふれたデバイスです。樹脂でモールドされたものは比較的小さな容量で家電製品にも付属するもので、産業機器用のものは容量も大きなものが選択でき、放熱も考慮した金属製のフレームとなっています。
このスイッチングパワーサプライは商用電源を入力として半導体のスイッチング素子でいわばパルス幅変調PWM(Pulse Width Modulation)の原理で平均電圧をコントロールしているものです。このため、リニアレギュレータ方式では降圧のためにトランスを使用するのに対して、スイッチング方式ではトランスを用いなくても降圧できるため、サイズを小さくでき、軽量化も図れるのが特徴です。最大の特徴はリニアレギュレータ方式に比べ発熱が小さく、効率が高いことです。
反面、高速でスイッチング動作させることによる高調波のノイズが発生し、出力電圧にもリップルとして現れ、入力側にも悪影響をおよぼしますので、しっかりしたノイズ対策が必要な場合があることを理解して使用します。
マイコンに限らずスイッチングパワーサプライを選定する際のポイントは、負荷側で最大どれくらいの容量(電流)が必要かを算定しておき、不足しない大きめなものを選ぶようにしましょう。
DC-DCコンバータについて
直流電圧をマイコン電源近くまで落とすためにはDC-DCコンバータという部品を使用します。このDC-DCコンバータは直流を直流に変換するスイッチング方式で降圧のみならず昇圧ができるタイプもあります。変換したい電圧差があまり大きくない場合は、次に説明するリニアレギュレータ(三端子レギュレータ)と呼ばれる部品が安価で気楽に利用できるのですが、電圧差が大きい場合には負荷で使用できうる最大電流による発熱を考慮してDC-DCコンバータを使用するのが無難です。
DC-DCコンバータはいろいろなメーカーから製品がだされていますが、入力と出力が電気的に絶縁しているタイプやリニアレギュレータと互換製のあるピン配置のタイプもあります。
前者の絶縁DC-DCコンバータは入力側を出力側から電気的に切り離すことで安全製を確保したり、ノイズ対策とすることができます。後者の DC-DCコンバータ はリニアレギュレータと互換性があるので発熱等で不安がある場合に簡単に置き換えることができます。三端子レギュレータの感覚で、例えば、入力DC24V/出力DC5Vのような大きな降圧差がある場合で出力に500mAほどの負荷電流をとれるものでも放熱板なしで使えるところが便利です。
リニアレギュレータについて
一般に三端子レギュレータと呼ばれる定電圧回路を簡単に構成するための電子部品です。このうち入力電圧と出力電圧の差が小さくても(1V程度)動作するタイプはLDO(Low Drop Out)レギュレータと呼ばれています。スイッチングレギュレータ、DC-DCコンバータおよびPCのUSB電源などによる直流電源を入力としてマイコン仕様にあった電源電圧出力をつくるのに使われます。
入力と出力の関係がリニアつまり線形であることからリニアレギュレータと呼ばれています。入出力間に負荷電圧をコントロールする素子が直列で構成されていることからシリーズレギュレータとも呼ばれます。
リニアレギュレータは入出力の電圧差が大きいと損失も大きくなることから発熱も大きくなるものですが、スイッチングレギュレータのような高速スイッチングを行っていないためノイズが発生しなく出力電圧はとても安定しています。特にLDOでは入出力の電圧差が小さくても動作するため、マイコンの電源用として最適です。
使用するにあたってはレギュレータの機能を安定させるために入力側、出力側の各端子とGND間にコンデンサを付加します。
何らかのトラブルで出力側に発生したサージ分を入力側に逃がしてレギュレータを破壊から守るために保護ダイオードを付ける場合もあります。
マイコンを電池で駆動する場合は直接マイコンに接続するか、リニアレギュレータ(LDO)だけを使ってマイコン仕様の電源をつくります。LDOレギュレータを使用するとマイコン電源電圧に対して約1V以上高い入力電圧であることは必要ですが最低限の部品で電源回路が構成できます。
コンデンサについて
電源回路につきものの部品にコンデンサがあります。コンデンサといっても容量、耐圧、周波数特性などさまざまなタイプがありますが、電源周辺で使用するものではアルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサおよびセラミックコンデンサの3種類を知っておけばよいでしょう。
コンデンサの選定では種類、容量の他、耐圧、さらに周波数特性を考慮する場合もあります。特に高い周波数の用途では等価抵抗ESRや等価直列インダクタンスESLといったパラメータも重要となりますが、マイコンの電源用途ではそう神経質になるものではありません。
大きな容量での大きめな電圧変動を抑えるのにアルミ電解コンデンサが使用されます。このコンデンサには極性があり、容量も耐圧もかなり大きいものまであります。極性を間違って使用すると破裂するので注意が必要です。
整流回路で電圧をならすのに使われるのがこのアルミ電解コンデンサです。
周波数特性にはあまり優れず、サイズが大きいのが短所です。
タンタル電解コンデンサは機能的にはアルミ電解コンデンサと同じようなもので、表面実装タイプがあるため、サイズが小さいことが求められる場合に使用します。これもアルミ電解コンデンサと同じく極性があります。
アルミ電解コンデンサに比べ周波数特性にすぐれるのが長所ですが、 タンタルは希少金属なため、価格が割高なのが短所です。
セラミックコンデンサは比較的容量の小さな用途に広く使われます。周波数特性にすぐれるため、高い周波数のノイズ対策用として使われます。
最近では容量の比較的大きなものまでありますので、従来ではアルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサであったところが、セラミックコンデンサに置き換えることができるようになりました。
極性はありません。
マイコン電源とコンデンサ
マイコンでの製品化するにあたっては電源周辺に仕様書に記載しているコンデンサを配置して電源を安定化させることが重要です。この役目のコンデンサは バイパス (デカップリング)コンデンサと呼ばれます。
スイッチングレギュレータ、DC-DCコンバータ、そしてリニアレギュレータを介してマイコン電源は作られるのですが、実際の回路にはプリントパターンなどが複雑に入り組んでいます。そのため、仕様通りの電源電圧をマイコンにあたえていて理論上では問題なくても、いろいろなノイズの影響などでマイコン電圧が不安定になることがありえます。
そこで、仕様書に記載されている容量のコンデンサをマイコンの電源端子のできるだけ近い位置に配置します。プラス側VDDとGND側VSSはマイコンによりますが、5組から10組程度あり、すべての組に0.1uF程度の周波数特性のよいセラミックコンデンサを細かな変動を抑える目的で配置します。
電源のおおもとには4.7uFから10uF程度のアルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサあるいはセラミックコンデンサを大きな変動を抑える目的で配置します。
■ 交流電源からマイコン用電源を作るにはスイッチングパワーサプライとLDOレギュレータが必須
■ 電池からマイコン用電源を作るにはLDOレギュレータだけでもよい
■ マイコン用以外の電源が必要な場合は中間にDC-DCコンバータをつかう
■ 電源回路設計には容量、ノイズなどを考慮して部品を選択する
■ 使用する負荷に対して十分大きめな容量のものを選択することが重要
■ コンデンサの種類、特性を理解して使用する
ひとことで電源といっても、単に指定されている電圧を与えればよいというわけではないことが理解できたとおもいます。電源にもいろいろな種類があり、容量、サイズ、ノイズなどを考慮して選定しなければなりません。初めて設計をする場合は多少神経なくらい慎重になってもいいと思うくらい大事なところです。ちなみに、経験によると、マイコン機器トラブルのほとんどが電源関連です。